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会長会見・挨拶

鵜川会長 記者会見(関西金融記者倶楽部との懇談会)

2024年3 月
一般社団法人 大阪銀行協会

大阪銀行協会 鵜川会長記者会見
​(関西金融記者倶楽部との懇談会)


 日 時 : 2024年3 月8日(金)11:15~11:45
        場 所 : 大阪銀行協会 (ダイビル本館16階)        


≪会長より冒頭挨拶≫
 大阪銀行協会の鵜川でございます。記者の皆様には、平素より大阪銀行協会の活動にご理解とご支援を賜り、誠にありがとうございます。   
 昨年6月の就任以来、会長の任期もあと3カ月を残すのみとなりました。本日は、皆様方からのご質問をお受けするのに先立ちまして、これまでを振り返りながら、昨今の経済情勢などの所感を申し上げ、その後、当協会の取組についてのお話をさせていただきたいと思います。

 まず、足元の経済情勢などについてですが、昨年6月9日の就任会見では、今日、わが国経済は、COVID19が5類に変更されて以降、経済活動の正常化や賃上げ、インバウンドの回復により関西経済も急回復しつつあること、その一方で、コロナ禍の3年間では表面化しなかった「高齢化と労働力不足の着実な進行」が一気に見えてきたこと、だと申し上げました。
 また、9月の日本銀行との懇談会では、昨年来の内外金利差の拡大と円安の中で、大きなメリットを享受し人的資本投資にも積極的に対応している事業者がある一方で、中小企業の中には、原油高・資源高・原材料高・人件費高騰などのコストアップ要因を十分に価格転嫁できず事業収益を圧迫されているところがあること、そういった中での賃上げは、先ずは人材の社外流出を食い止める為、という側面のあることを申し上げました。
 10月には、1ドル151円を超える円安となりました。物価や資産価格の高騰では、海外勢力には割安感から積極的に買われている一方、国内個人の実質賃金の目減りや住宅等資産取得のハードルが上り、更なる格差拡大といった副作用も見えています。
 1月の新年賀会で申し上げましたことは、円安は、輸出企業やインバウンド需要にメリットがある一方で、行き過ぎると、日本国力の評価が先進国GDPにも見られるように国別ランキングで低下し、様々な見え方に影響を及ぼすこと。更に2024年問題など労働力不足の問題が全事業者の人材獲得競争に拍車をかけ、ポストコロナの産業構造改革がハードランディング化する懸念を孕んでいることであります。
 そして、3月に入り、足元の株価は辰年相場の格言通りに急上昇を続け、日経平均株価が4万円を超える状況です。東証TOPIXもバブル期ピークに近づきつつあります。この状況に対して様々な角度から分析や評価がなされているところですが、いずれにしても、資産価値が急上昇していく局面での高揚感は久しくなかった感覚と言えるでしょう。
 ただ、資産運用立国を目指す中での資産形成の基本は、NISAの推奨スタンスにもあるように、「長期・分散・積立」であり、リスクマインドやバランス感覚を見失うことのないよう注意して、着実な資産形成に向けた運用や調達のお役に立つように、金融機関としての役割をしっかり果たしていくことが大切だと思います。
 また、内外の株価が上昇している一方で、中国は不動産問題を中心として景気が後退し、個人消費も低水準な状況にあること、また、米国は景気の好調を維持しているものの、商業用不動産や個人住宅に弱さも見られること、等から日本のマーケットや経済にマイナス影響を与える事象が見られることにも留意が必要な状況にあります。
 しかし、いずれにしましても、日本経済は、ようやくデフレマインドから脱却出来る機運になってきました。事業者の皆さんや金融機関においても、資金や資本の内部留保を積み上げるだけでなく、積極的なリスクテイク、目利きと創意工夫でマーケット創造にチャレンジしていく継続的なリスクテイクを後押し出来るよう、当協会においても知恵を絞って役割を果たして参りたいと思います。

 次に、当協会の活動についてご説明申し上げます。2023年度の主な取組としましては、「関係官庁や産業界、金融機関との連携」、「金融経済の調査・研究、普及・啓蒙」、「銀行とりひき相談所」などの主要業務につきましては、移転後の新事務所においても特段の支障なく立ち上げることが出来、地域への貢献を標榜する協会として、関係当局との一層の連携強化に努めました。
 具体的には、昨年9月に開催した「日本銀行総裁との金融経済懇談会」の機会等を捉え、地元の業界を代表して、金融経済情勢を丁寧に説明するとともに、地元金融界の要望等を伝えました。また警察当局と連携し、府内で還付金詐欺が多発し社会問題となっている詐欺対策の一環として、啓発物品を作成し金融機関等に配付するなど、金融犯罪防止に向けた各種取組みを推進しました。
 この間、当地の金融経済情勢を踏まえたアンケート調査を実施し、その結果を協会ウェブサイト等で公表したほか、「関西地区の中小企業の人手不足に対する金融機関の取り組み」や「2024年関西経済の展望」をテーマとしたシンポジウムを開催するなど、地域社会・経済活性化に微力ながら貢献できるよう新たな施策にも取組みました。さらに、金融機関向けには、「マネロン対策」や「金融仲介機能の発揮」などのタイムリーなテーマでのセミナーを開催するなど、様々な形でサポートに努めました。
 当協会としては地域社会と銀行界の接点として、社員銀行の皆様とも力を合わせ、地元金融の円滑な運営と顧客サービスの向上に資する活動を展開することを通じて、地元経済の発展に貢献できるよう、引き続き努めて参ります。

 さて、私の会長としての記者懇談会は本日が最後となります。この場をお借りしまして、これまでの皆様方から頂きましたご厚情に改めて御礼申し上げます。誠にありがとうございました。
 来年度は、既に公表のとおり、三菱UFJ銀行さまに会長行をお務めいただく予定です。皆様におかれましては、大阪銀行協会の活動に今後とも一層のご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げまして、私のご挨拶とさせていただきます。


≪質疑応答≫
(問)
 質問は2つある。まず1つ目は、日銀の長期金利政策の見直しなど、この1年で金融業界も変化があった。改めて関西経済にどういう影響があったのか、振り返りを伺いたい。2つ目が、2024年、これからの話だが、足元で新NISAが始まり、今後も米国大統領選挙、2024年問題の本格化といった、日本経済に大きな影響のある出来事が予定されている。これらの動きをどうみているか、お考えを聞かせてほしい。

(答)
 まず、2023年度、この1年間金融業界に大きな変化があったという話である。ご案内のとおり4月に日本銀行の植田新総裁が就任され、基本的な緩和スタンスは維持しつつも、実際には長期金利が上昇したということで、就任当初は0.3%強であったのが、その後、当然波があって高い時期もあったが、平均して0.7%前後の推移になっている。足許はマイナス金利解除の見方が強まってきている状況のなかで、この1年間ということだと、基本的なマイナス金利政策は維持されているので、事業者あるいは金融機関においても金利面での劇的な変化があったわけではないものと思う。先ほど申し上げた長期金利の推移のレベル感で言うと、どちらかというと、むしろこの間、米国の金利が高止まっている状況から円安が進んだ。7月頃は130円強だったのが、150円近く、今も150円の手前のところで推移している。円安のメリットを受けておられる事業者にとっては、長期金利の若干の上昇よりもこちらのメリットの方が大きかったのではないかと思う。金融機関においても、短期金利のベースのところのマイナス金利政策の修正は経営的にも大きな影響を与えるところであり、今、そういう観測が出ているが、そこのところは我々も注視している状況だと思う。
 2つ目の質問は、足元、2024年に入って、1月の新NISAの始まり、各国、これは私も当協会の新年賀会の時に申し上げたが、色々な国で、米国もロシアも、あるいは台湾においても韓国においても総選挙等、国の体制を確認するような選挙がこの1年間続く形になっているので、そういう選挙の流れのなかで、国のスタンスが変わる可能性があるという年ではある。
 NISAの方は順調に滑り出しをしている。特にネット証券を中心に若い世代、あるいは投資の初心者のところで、貯蓄から投資へのスタンスがみえ始めているということで、狙いどおりの動きになっている。最近の相場の環境もそれを後押ししている部分もあると思うが、そういう環境のなかでこれが開始されるということは、大変望ましい状況だったかなと思っている。
 2024年問題は物流業界の問題ではあるが、一業界に留まらず、世の中全体が労働力不足という流れのなかで、この業界から始まる問題が日本経済に大きな影響を与えていく可能性があるのだろうと思う。特に、ネット通販などを支えているのは物流拠点であったり、そういう物流ということなので、新しい購買のモデルを支えているところに労働力不足の問題が出てくる点については、その労働力不足を補っていく工夫が様々なところで要るのだろうと思う。
 今年は、足許はマーケットが辰巳天井と言われるがごとく上昇しているが、冒頭の話で申し上げたように、決して留意すべき点がないわけではないので、そこのところを注視していく必要があると思っている。

(問)
 2点伺う。1つ目は先ほどコメントを頂いたが、日銀のマイナス金利政策が3月解除、4月解除、2つ見立てがあるなかで、いよいよマイナス金利の解除も目前に迫っていると感じているが、先ほどのコメントでは、短期金利のベースのところが変われば金融機関にとっての影響があるというご指摘だったが、マイナス金利解除に伴う管内金融機関の影響等々について、ご所感を頂きたい。
 2つ目が、ちょっと細かい話になって恐縮だが、2022年、2023年は、海外の中央銀行がインフレ抑制のために大幅に利上げした結果、金融機関が持っている外債の含み損が膨れ上がり、金融機関の業績が下押しされてきたが、足元で個人的に注目しているのがREITである。REIT
は低金利下では地銀中心に利回りの見込める商品ということで買い進めていたかと思うが、金利が上昇していく局面では、どうしても不動産の金融商品としての冥利が薄れ、なおかつ不動産開発をするのに資金調達のコストが増えるわけなので、金利高ではどうしても含み損が大きくなっていくかと思う。地銀が保有しているREITについて今後の展望等々についてご所感を頂きたい。

(答)
 1点目の日銀の金融政策、マイナス金利の解除が目前との観測のなかで、この影響をどうみているかということだが、まず、解除後、どのぐらいの上昇をたどるかというのが影響をみる上で大きな問題になる。マイナス部分が解除される程度だと0.1%程度の話になってくるが、マーケットでどのような流れになってくるかは注視していく必要があるし、長期金利にそれがどう影響してくるかというのも注視していく必要があると思う。さらに上がってくるとなると、銀行にとっては貸出金利だけではなく、預金金利の引上げ、あるいはマーケットがそれを先取りする形で金利が上がっていくことも可能性としては考えられる。
 そういう意味では、運用、調達、両面で金利の上昇にどう備えていくか、銀行のいわゆるALM、資産と負債の双方の管理をどのようにみていくかというのは、各金融機関個別の問題ではあるが、そういうものが動き始めると、そこの巧拙で収支面、損益面、あるいは流動性の問題にとって大きな課題になってくると思う。銀行としては解除の局面になった時に、既にそういうふうに言われて1年以上経っているので、各金融機関ともそういう状況での対応については十分、事前にシミュレーションできていると思うが、実際にその局面に入ってくるんだろうと思っている。
 2点目、各国利上げのなかで海外で債券等の含み損が発生し、銀行の経営が厳しくなるようなケースも見えたという状況のなかで、今、国内のREITをどうみているかというお話だった。冒頭でも申し上げたように、米国でも商業用不動産、住宅もそうだが、マーケットあるいは経済全般の活況とは別に、そういうところには注視すべき点がある。もう皆さんご案内のとおり、DX、AIが進んでくると、リモートワーク等、働き方改革が進み、オフィス需要が減退するなかで、商業用不動産などが低迷してくる。このアメリカの状況が今後どのぐらい進展していくのかを注意を持ってみていく必要があるが、日本の不動産においても、今申し上げたようなDX、AI、あるいは働き方改革の問題というのは同じような環境なので、同じ道筋を辿るかどうかというところがポイントになるのだと思う。
 但し、アメリカと日本の住宅事情も若干違っているような気もするので、リモートワークが日本においてどのぐらい進んでいくのか、あるいは自宅でなくても、違う場所で働くといったような、環境の整備も含めて、そういった影響を受けるなかでREITがどういう道筋を辿るのかというところは、わが国においても見ておく必要があるし、今のREIT指数を見ても、以前のようなところからは若干下がってきている傾向にある。そういう意味では、注視をしていく必要があると思う。ただ、海外と同じような道筋を辿るかどうかは、環境も違うので、そこはよく見ながらやっていく必要があると思うし、地銀においても、以前、リーマンショック時のようなREITの参加者が極めて限定的という環境とも今の環境は若干違うので、どの程度マーケットの吸収力があるかということも見ておく必要があるという印象を持っている。

(問)
 今月16日に北陸新幹線の金沢~敦賀間の延伸開業が予定されている。首都圏とのアクセス向上が見込まれる一方、大阪からは少し不便になるところもあり、大阪と北陸経済の断絶とか、経済的な距離が生まれる懸念に対してのご意見があれば伺いたい。

(答)
 新たな交通網が整備される点については、今お話があったようなこととは違う目的で計画されたとは思うが、輸送環境が変わることによって今後どういう影響が出てくるかということについては、注視をしていく必要がある。今、お話があったようなことに必ずなるとも考えていないし、北陸は関西圏から見るとそれ程遠いところでもない。様々な方法もあると思うので、断絶するという印象は持っていない。

(問)
 2点伺いたい。1つ目が、能登半島地震から2カ月経って、関西経済にどういう影響が出ているかというところと、2つ目が株高について、大企業は良いと思うが、中小企業や一般の市民のレベルで言うと、株高の恩恵はあまり受けて無いという見方もある。その辺りをどのように見られているか。

(答)
 能登半島地震の影響ということについて、もちろん個別の企業によっては、そちらに工場があったり、営業所があったりというのは当然あるので、そういう意味では影響があるところは個別にはあると思うが、関西経済全体をみたときに、あの地震によって、未だ2カ月経っても厳しい状況というのは限定的とは思っている。当初は関西の色々な自治体からも、被災現地へ応援にどんどん行かれるなかで、現地の状況も関西にはしっかり伝わってきており、できるだけの対応は関西のなかでもやってきているし、我々も一定程度のご支援をしてきているが、経済のダメージとして関西が大きな影響を受けているというような見方にはなっていないという印象である。
 株高と中小企業への影響ということだが、株高の高揚感というのは、既に株を持っておられるところは当然、資産としての評価が上がっているので、含み利益があり、あるいはそれを売ることによって利益が出るというメリットはあるが、持っておられないところは、取得のハードルがむしろ逆に上がっていくという部分もあるので、資産価格が上がる局面では、そういう二分化の傾向があることは否めないと思う。
 むしろ、今、株価が上がっているので、海外の投資家の目線が他国比較で日本の方へ向いているということで、資金が日本の方へ流れてきているのは大きいわけだが、日本がその受皿になり得ている点については、PBR1倍もそうだし、資本コストを意識した経営を促してきた東証の改革が背景にあると思う。
 上場企業中心にはなるのだろうが、そういう色々な改革、積極策が中小企業にとってどういう影響を与えていくかというところの目線は、注意を持ってみていく必要がある。二分化していくという問題もある一方で、その影響を受けて、中小企業も積極的にリスクテイクしていくなかで、今のデフレマインドからの脱却のなかで活路を見いだしていく可能性もあると思うので、この状況のなかでポジティブに捉えてやっていかれる企業が沢山出てくることを望んでいる。

(問)
 冒頭挨拶のなかで、新NISAの順調な立ち上がりということがあったが、逆に、資産運用立国に向けて、金融リテラシーや金融教育というところに今後注目が集まっていくと思う。協会として、また金融業界の立場からみて、金融教育についてお考えを聞かせていただきたい。

(答)
 今お話があったように、「長期・分散・積立」という流れのなかで、幅広く多くの方にそういう資産形成の入り口に入って頂くという意味においては、リテラシーを上げて頂くというのは大きな眼目である。先ほど当協会の理事会を開催し、来年度の事業計画を審議していたが、金融経済教育推進機構に歩調を合わせる形で、金融リテラシー、そういったところにパワーを発揮できるよう、計画のなかにも織り込んでいる。そういったなかで、各個別の銀行においてもそういう役割を果たしていくような企画、プランを立てていると思うので、そういう部分ではどんどん前に向かって進んでいく環境整備ができているのではないかと思っている。

以 上