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開催実績

第58回大銀協フォーラム(開催結果)

第58回大銀協フォーラム(開催結果)

 2月20日、第58回大銀協フォーラムを会場とオンラインでの参加によるハイブリッド形式で開催しました。
 当フォーラムは、主に関西所在大学の若手金融経済学者への研究支援活動や学界と銀行界の交流を目的として例年2月と8月に開催しており、今回は、学界から20名、銀行界等から15名の計35名が参加しました。当日の模様は以下のとおりです。

 第一部では、2024年度研究支援の表彰式を行いました。当フォーラムでは、会員の地元若手金融経済学者を対象に、金融に関する論文企画を毎年募集のうえ、優秀な企画に対して表彰するとともに論文作成の支援として助成金を支給しています。
 当日は、支援対象に選出された4グループの受賞者に対し、専務理事から賞状を授与した後、各受賞者から企画の概要や論文作成方針等を説明するセッションを設けました。
 2024年度研究支援の対象企画については、2024年12月5日付「大阪銀行協会主催『大銀協フォーラム』2024年度研究支援対象決定のお知らせ」をご参照ください。

 








 第ニ部は、2023年度に研究支援の対象となった3名の受賞者により、研究成果の論文の要旨を説明するセッションとしました。
 なお、各論文については、「大銀協フォーラム研究助成論文集第29号」に収録しています(同論文集は、当協会ウェブサイトにも掲載しています)。また、論文要旨の説明の模様は、YouTubeの当協会公式チャンネルで公開しています。





 第三部は、関西学院大学経済学部教授・アントレプレナーシップ研究センター長の加藤雅俊教授による「スタートアップとは何か‐経済活性化への処方箋」をテーマとした講演会を開催しました。講師による説明の後には、参加者との間で活発な質疑応答が行われました。講演の要点は以下のとおりです。

  •  スタートアップは創業間もない企業であり、近年、経済活性化への貢献が期待されている。ただし、そのような役割を担うには、市場でのフェアな競争が可能な環境整備など政府が「介入」していく余地が大きい。
     スタートアップには、従業員スピンアウト、大学発スタートアップ、独立系スタートアップなど様々なタイプが存在する。また、起業家にも、同様に、機会追求型、生計確立型、革新的起業家、模倣的起業家など様々なタイプがいる。
  •  日本のスタートアップの現状をみると、1990年代以降、会社開業率は低い状況が続いている。足もとでも潜在的起業家は、データのある2007年以降、激減しており、特に若い世代の起業希望者の減少が顕著。海外諸国と比較しても、日本の起業活動に関する調査結果は何れも低い水準となっており、なかでも起業環境面に関しては、資金調達や政府の創業支援、初等・中等レベルでの起業家教育、文化的・社会的規範の水準が低い評価となっている。
     こうした状況下で、起業家を産み出していくための処方箋としては、第一に広義の起業教育の充実が挙げられる。すなわち、起業に対する社会の理解を高めていくことである。起業する能力があり、創業後もパフォーマンスが高いのは、何れも学歴が高い者であるが、そのような高学歴者が起業を試みると親から反対されるケースが少なくない。起業活動の活性化には、初等・中等教育レベルでの若者への起業教育に加え、親世代も含めた幅広い世代に起業に対する理解深耕を図っていくことが必要。
     第二は、企業の新陳代謝の促進である。「ヒト・モノ・カネ」の資源が流動化しないと新陳代謝は生じない。解雇規制の見直しや企業間取引の公正化など、既存の企業のリソース(人材、技術、資金等)がスタートアップを含む市場に円滑に流入する仕組みを構築していくことが求められる。
     第三は、質を伴った起業を増やすことである。海外では、起業のハードルを引き下げたところ、新興企業の増加に繋がったが、市場の淘汰メカニズムを歪める結果になった事例もみられる。創業後に相応のパフォーマンスを維持するスタートアップを増やすためには、人的資本や規模など「創業時の条件」の確保を促すとともに、能力の高い個人の「起業インセンティブ」を高めることが重要。
  •  日本では、起業に加え、創業後の成長性にも課題がある。例えば、国内は、海外に比べユニコーンの企業数が少なく、高成長企業の誕生が強く求められている。
     このような状況を変化させるために必要な対応は、第一にリスクマネーの供給を一段と促していくことである。例えば、VC投資規模をみると、日本は欧米や中国と比較して小さい。これは、投資家自体が少ないことによる面と投資先としての有力企業が少ないことによる面の両論が指摘されているが、いずれにしてもリスクマネーがより潤沢に供給されるような環境を整えていく必要がある。その具体策としては、まずエクイティでの供給増が挙げられる。日本企業は、創業時からデットファイナンスの比率が高く、その後も時間の経過とともに高まる傾向がある。デット依存の資金調達は、倒産確率を高める結果に繋がり、ラディカルなイノベーションへの取組みも難しくなる面がある。また、CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)投資を促進することも指摘できる。独立系VCはリスクを回避する傾向が強いのに対し、CVCはリスク許容度が高いと言われている。
     第二の対応は、スタートアップが大企業とパートナーシップを構築していくことである。スタートアップと大企業は、前者はリソース面で後者から支援を受ける一方、後者は不得手なラディカルなイノベーションの果実を前者から享受するといった補完関係を構築し得る。スタートアップの成長には、大企業が外部組織を巻き込んでイノベーションを起こすオープン・イノベーションに取り組んでいく必要があり、そのためには大企業において外部知識を組織内部で活用する「吸収能力」を高めることが求められる。
     第三の対応は、地域レベルで環境整備を図っていくことである。スタートアップは、創業当初は地域に根付いて活動する場合が多いため、地元での支援が重要となる。地域単位で長期的に起業の環境整備(地域のスタートアップ・エコシステムの構築)に取り組む必要がある。
  •  最後に、日本で起業活動・スタートアップを活性化していくためには、これまでの動向を十分に事後検証のうえ、次世代に教訓として残す必要がある。また、短期的な成果を求めるのではなく、長期的な視点で環境整備を進めていくことも重要である。


 今回のフォーラム終了後には、当フォーラム会員と金融機関役職員による恒例の懇親会を開催しました。研究発表や講演会に関する意見交換のほか、最近の金融経済情勢に対する見解など活発な議論が交わされ、参加者にとって有意義な交流の場となりました。

以 上

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