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開催実績

第57回大銀協フォーラム(開催結果)

第57回大銀協フォーラム

  8月23日、第57回大銀協フォーラムを会場とオンラインでの参加によるハイブリッド形式で開催しました。
 当フォーラムは、主に関西所在大学の若手金融経済学者への研究支援活動や学界と銀行界の交流を目的として、例年2月と8月に開催しています。 
 今回は、学界から12名、銀行界等から31名の計43名が参加するもとで、三菱UFJ銀行経営企画部経済調査室長の渡辺陽氏による「金融を取り巻く環境変化と銀行経営」をテーマとした講演会を行いました。講演会では、講師より以下のような説明があった後、参加者との間で質疑応答が行われました。

 金融を取り巻く内外の環境は大きく変化している。コロナ禍前の世界と足元の世界を比較すると、様々な領域で構造変化が生じた。今後は、ニューノーマルの世界において、どのような均衡点に着地していくのかを探っていくフェーズである。例えば、米国の利下げ転換や、日本の金融政策正常化などは、我々の経営環境が次のフェーズに入りつつあることを実感する出来事である。ただし先行きは引き続き不透明であり、リスクファクターも多く残っている。本日は、今後のフェーズに向けて、足元の経済環境を確認するとともに、世界経済の見通しについて申し上げる。
 まず、米国経済については、昨年後半以降、実質GDPの成長率が減速基調で推移しているが、個人消費を中心に底堅い動きが続いてきた。雇用環境については、足元の失業率がFOMC参加者の見通しを上回った。レイオフ数の増加は緩やかなペースに止まり、労働市場は急速な悪化はしていないが、自発的離職者数はコロナ禍前の水準まで減少するなど、労働需要の抑制が進んでいる。個人消費は、超過貯蓄の払底や低水準の貯蓄などから先行き減速するものの、高齢者を中心とした資産効果等により底堅く推移し、失速は回避されるとみられる。当面の同国経済にとっての最大のイベントは、本年11月の大統領選挙。現時点ではハリス副大統領とトランプ前大統領の支持率が拮抗しているが、仮にトランプ氏が再選した場合、インフレ圧力の高まりや財政赤字の拡大を招来するリスクがある。
 次に欧州経済については、本年6月の欧州議会選挙で中道3会派の議席シェアが減少する一方、極右・右派の議席数が増加した。新議会では会派間の主張の隔たりが大きいため、EUレベルでの経済政策や防衛体制、気候変動対策は、政策実現のスピードが低下する可能性が高い。フランスでは、国民連合が掲げた財政拡張への懸念から長期金利が上昇も、選挙結果を受けて低下。2007年以降、得票率が上昇基調にある国民連合の今後の動向には要注意。英国では、EUとの関係改善や野心的な環境政策を推進する意向の労働党政権が直近選挙で勝利。大きなサプライズはなかったが、前回選挙と比べた労働党の獲得投票率の上昇幅は限定的であった。
 続いて中国経済は、これまで不動産・インフラ投資を成長ドライバーとしたマネーフローの拡大が経済の好循環に繋がり、高い成長率を実現してきたが、足元ではコロナ禍以降の不動産市況の悪化により、こうした好循環が崩れ、蓄積してきた構造的課題が表面化している。すなわち、政府、家計、企業の各部門で債務が急増しており、過大投資に伴い投資効率も急速に低下している。また、不動産市況の悪化が続いており、GDPの約3割の規模を占める関連産業で相当数の先に影響が生じているほか、積極的にインフラ投資を拡大してきた政府債務が急激に増加している。同国経済の先行きについては、政策的な対応が下支えするが、長期化する不動産不況や消費者マインドの停滞などにより低空飛行が続くものとみられる。
 このように海外経済が全体として減速基調にあるもとで、日本経済は緩やかに回復していくものとみている。
6月の日銀短観によれば、企業部門では、収益好調を受け、設備投資意欲が強い。また、賃金に関しては、大企業で労働分配率が低水準となっていることや、働き方改革の進展もあって人手不足感が強まっていることなどから、本年に続き、2025年以降も相応の引き上げ方向の動きが続くとみられる。この間、物価動向は、企業による価格転嫁が進展しており、今後の賃上げとも相俟って、2%程度のインフレ率が継続すると予想している。こうした中、個人消費は、当面物価高が重石となるが、賃上げの反映につれて、次第に持ち直しに転じるとみている。このようにわが国では、先行き緩やかな景気回復と物価上昇が進むもとで、金融政策の正常化が着実に進展することが想定される。政策金利動向に関しては、欧米当局が利下げに転換する一方、日銀は名目中立金利に向け利上げを進めることが予想されるため、日米の長期金利差は次第に縮小していくものとみている。
 最後に、日本における個人金融資産の動向、貯蓄から投資への動きについて、米国と比較したうえで申し上げる。比較のポイントは、①流入する資金の総額(すなわち「蛇口」)、②流入した資金のアロケーション、③リスク性資産への投資を後押しする制度、④成功体験の4点。米国では、持続的な経済成長・賃金拡大・株価上昇の下で、家計貯蓄は総じて右肩上がりで推移し「蛇口」が拡大してきた。そうしたなか、同国における家計の金融資産フローは、一定部分は継続的に預金に流入しつつも、80年代半ば以降、DCから投信、世界金融危機後は株式といったように、アロケーション上のリスク選好が徐々に強まってきた。加えて、株高の中で成功体験も積み重なり、米国では長期に亘って好循環が生まれ、全体の資産規模が拡大した。
 一方、日本は、デフレおよび株価低迷が長期化し、そのなかで所得は伸びず、バランスシート調整もあり、家計の金融資産フローは、バブルをピークに2000年代はじめにかけて急減し、低迷が続いてきた。そして、リスク性資産に回す余裕がないことから、アロケーションのほとんどが預金に充てられ、投資の成功体験も積み上がらなかった。しかし、今はバランスシート調整も終了しており、所得も増え始め、新NISAも好調なスタートをしている。過去の実績を見ると、日本では、総資金流入額が20兆円を超えたあたりから、リスク性資産に資金が流れる動きもあった。現状、日本の個人金融資産への資金フロー規模の実力が20兆円台とみられるなか、資金がリスク性資産に回る素地が出来てきた可能性もあり、今後の動向を当行としても注目している。

 講演会の終了後には、恒例の懇親会を開催し、学界と銀行界からの参加者の交流を図る貴重な機会となりました。


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